「源氏物語 松風」(紫式部)

明石の君上京、そのとき紫の上は

「源氏物語 松風」(紫式部)
(阿部秋生校訂)小学館

「源氏物語」小学館

明石の君はついに上京し、
大堰川沿いの別荘で
源氏の訪れを待つ。
源氏は紫の上に
申し訳なく思いながらも、
嵯峨野の御堂への用事に
かこつけて大堰へと通う。
焼きもちを焼く紫の上に、
源氏は明石の君の娘君の
養育を持ちかける…。

源氏物語第十八帖「松風」では、
いよいよ明石の姫君が上京してきます。
これが源氏の事実上の正妻・
紫の上の心を乱します。
須磨・明石に退居している間、
あれだけ固く誓ったにもかかわらず
夫・源氏が関係を持った
明石の君の存在は、
紫の上にとって
決して小さなものではないはずです。

このときすでに、紫の上の心を
悩ませうるような女性は、
源氏の周囲には
存在していなかったのです。
六条御息所はこの世になく、
朧月夜は悔い改め、
藤壺も空蝉も髪を下ろしているのです。
名のあるところでは
花散里と末摘花くらいであり、
この両者は性の対象としては
取るに足りません
(花散里は癒やしの存在であり、
末摘花とは性的交渉なし)。
つまり明石の君登場は、
紫の上にとって
強力な恋敵の出現なのです。

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しかもその明石の君は
源氏の子を身籠もりました。
紫の上には
子が授からなかったのに対し、
明石の君は源氏の子を、
それも娘を宿したのです。
娘こそ、将来の権力拡大のために
源氏が欲っしたものなのです。

当時権力を掴むためには、
天皇の外戚となることが必要でした。
つまり自分の娘を天皇の后にし、
娘が次の天皇となるべき
皇子を産むことが
政治の実権を握ることに
直結していたのです。
源氏は自分の嗣子として
すでに葵の上との間に
男子・夕霧をもうけています。
次に欲しいのは
まさに「娘」だったのです(実際、
この娘・明石の姫君は、後に入内し、
冷泉帝譲位後の帝の妃となり、
皇子を産むことになります)。

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作者・紫式部はその源氏の「娘」を、
紫の上ではなく
明石の君に産ませるという
設定をつくり上げました。
このあたりが物語作りのうまさです。
紫の上に娘が授かると、
源氏にとっても紫の上にとっても
全ては望み通りであり、
物語は生まれません。
そうでないからこそ紫の上も苦悩し、
源氏も迷い、
そこに物語が生じてくるのです。

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それにしてもこのとき源氏三十一歳。
若き日のような
軽々しい女遊びは鳴りを潜め、
紫の上と明石の君の両方に対して
実に上手に立ち回っています。
大人の余裕が感じられます。
こうしたところにもまた
紫式部の筆の冴えが見られるのです。

〔前帖〕

〔次帖〕

(2020.5.16)

Manuel Alejandro LeonによるPixabayからの画像

【源氏物語】
01 桐壺
02 帚木
03 空蝉
04 夕顔
05 若紫
06 末摘花
07 紅葉賀
08 花宴
09
10 賢木
11 花散里
12 須磨
13 明石
14 澪標
15 蓬生
16 関屋
17 絵合
18 松風
19 薄雲
20 朝顔
21 少女
22 玉鬘
23 初音
24 胡蝶
25
26 常夏
27 篝火
28 野分
29 行幸
30 藤袴
31 真木柱
32 梅枝
33 藤裏葉
34 若菜上
35 若菜下
36 柏木
37 横笛
38 鈴虫
39 夕霧
40 御法
41
00 雲隠
42 匂兵部卿
43 紅梅
44 竹河
45 橋姫
46 椎本
47 総角
48 早蕨
49 宿木
50 東屋
51 浮舟
52 蜻蛉
53 手習
54 夢浮橋

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